100年後の生態系のために、
いま記録する
散歩しながら自然を記録する。
それだけで、未来の科学者への贈り物になる。
世界中で、同じことを考えている人がいる。
八巻 毅
IKIMON 代表 / 自然共生サイト認定企業・愛管株式会社パートナー
80%+
GBIF データの市民科学比率
2010年以降
2億件
iNaturalist 累計観察
330万人が参加
485
自然共生サイト認定
日本 2026年1月
51%
GBF 指標の市民参加率
365指標中
なぜ記録が大切なの?
もし100年前の人が、近所で見た生き物を毎日メモしていたら。
私たちは「あの頃、ここにはどんな生き物がいたのか」を正確に知ることができたはずです。
世界最大の生物多様性データベース GBIF(地球規模生物多様性情報機構)に登録されている 2010年以降のデータのうち、80%以上が市民科学から生まれたものです。このデータを使って、毎日約7本のペースで査読付き論文が世界中で出版されています。 出典: GBIF Science Review / BioScience 2024
気候変動により、日本の生き物の分布は年々変化しています。桜の開花は50年前より10日以上早くなり、かつて見られた昆虫が姿を消し、南方の蝶が北上しています。でも、「いつから変わったのか」を証明するデータが足りない。
研究者だけでは、日本中の生き物を毎日観察することはできません。
でも、散歩する人が「今日、この場所で、この生き物を見た」と記録するだけで、それは立派な科学データになります。
そしてもうひとつ大事なこと。「いなかった」という記録も、科学にとっては宝物です。「この場所を歩いたけど、○○は見つからなかった」——それは、分布の境界線や個体数の減少を知る手がかりになります。ikimon のウォークモードやライブスキャンは、「探したけどいなかった」という不在データも自動で残します。
これは日本だけの話じゃありません。アメリカの iNaturalist には 330万人が参加して 2億件の観察を記録しています。フィンランドでは MK という鳥声認識アプリに国民の5%(31万人)が参加し、1,630万件の録音データが集まりました。「ふつうの人が、ふつうに記録する」ことが、世界中で科学を動かしています。
ikimon は、その「ふつうの散歩データ」を100年先まで残る形で記録するために作られました。
世界はいま、どう動いているか
「市民が生き物を記録して、それが科学や政策に使われる」——これは夢物語じゃなくて、もう起きていることです。いくつか数字を見てみましょう。
政策を動かすデータ
国連の生物多様性枠組み(GBF)には、自然を守るための 365 の指標があります。このうち51% は市民の参加がないと収集できないものです。気候変動でいう IPCC に相当する IPBES(生物多様性版 IPCC)も、市民科学データに依拠して評価を行っています。
2022年に採択された「30x30目標」——2030年までに陸と海の30%を保全する——の進捗モニタリングにも、市民のデータが不可欠です。専門家だけでは、時間的にも空間的にも、カバーしきれないからです。
数字で見る政策インパクト
GBIF 経由の論文
2020-2024年に 7,786本の査読論文が GBIF データを使用。2019年から倍増。
EU の動き
Horizon Europe が市民科学による生物多様性観測能力の強化に予算を配分。
出典: GBIF Science Review 2024 / PNAS 2025
日本の動き
日本では環境省が「自然共生サイト」の認定制度を 2023年に開始しました。2026年1月時点で 485サイトが認定され、うち 282サイト(54,500ヘクタール)が国際データベースに OECM として登録されています。30by30 アライアンスには企業・自治体・NGO など 1,000以上の組織が参加しています。
興味深い研究結果もあります。生き物の分布を正確に推定するには、専門家のデータだけでも、市民のデータだけでもダメで、両方を 50-70% の割合で混ぜたときがいちばん精度が高いことがわかっています。専門家と市民が補い合う関係です。 出典: eLife 2024 "Boosting biodiversity monitoring using smartphone-driven data"
歩くことの副産物
市民科学には、自然を守る以外の効果もあります。2024年の Frontiers の研究では、生物多様性の市民科学に参加した人は自然とのつながり(nature relatedness)と自己効力感が有意に向上したことが報告されています。
個人への効果
- 自然への関心・愛着の向上
- 屋外活動による身体的健康
- ストレス軽減・気分改善
社会への効果
- 地域コミュニティの形成
- 社会的孤立感の低減
- 環境リテラシーの向上
出典: Frontiers in Environmental Science 2024 / PMC 2022
生き物を記録するために外を歩く。それだけで、科学データが生まれ、政策の根拠になり、自分の健康にもつながる。市民科学は「お手伝い」ではなく、社会インフラの一部になりつつあります。
3つの記録方法
ikimon では、キミの「やる気」や「時間」に合わせて、3つの方法で生き物を記録できます。
観察投稿
いちばんカンタン
生き物を見つけたら、スマホで写真を撮って投稿するだけ。撮影した写真から場所(GPS)・日時・方角を自動で読み取るので、キミが入力する必要はほとんどありません。
ウォークモード
歩くだけでいい
スマホをポケットに入れて歩くだけ。AIが周囲の鳥の声を聞き取って、自動で種名を記録してくれます。6,522種の鳥声に対応。歩いた距離やステップ数も自動計測されるので、健康記録にもなります。
ライブスキャン
AI が自動で見つける
カメラとマイクを同時に使い、移動しながら周囲の生き物を自動検出します。AIが画像から種を判定し、同時に鳥の声も聞き取ります。徒歩・自転車・車の3つのモードがあり、移動速度に合わせて撮影間隔を自動調整します。
ikimon はなぜこう作ったのか
生き物観察のアプリはいくつもあります。それぞれに素晴らしい特徴があります。
ikimon が特定の設計を選んだのには、それぞれ理由があります。
ikimon の AI 哲学 — 主役は人間、AI はサポート。
多くの生き物アプリでは、写真を撮ると AI が「これは○○です」と答えを出します。便利ですが、ikimon はあえて違う道を選びました。AI は「ここを見て」「この特徴に注目して」とヒントを出す役割に徹し、最終的な判断は人間が行います。
ライブスキャンのように広い範囲をざっくり記録するときは AI が活躍します。でも、1件1件の正確な同定は、やっぱり人の目と経験が必要です。
100年後には、AI だけで完璧に同定できる時代が来るかもしれません。でも、そのAIを育てるための「人間が確認した正確なデータ」を、いま積み重ねておく必要がある。それが ikimon の役割です。
「手動で撮る」だけでは見逃す
人間の目は、興味があるものしか見ません。でも生態系の記録には「そこにいたけど気づかなかった生き物」も大切です。だから ikimon はAIによる受動検出を採用しました。カメラと音声で、キミが気づかなかった生き物も記録します。ただし、AIが出すのはあくまで候補。最終的な同定は人間が確認します。
「誰でも同定できる」だと精度が下がる
100年後の科学者がデータを使うとき、「この記録は信頼できるのか?」が問題になります。だから ikimon は同定者の専門性で票の重みを変える TrustLevel を導入しました。昆虫に詳しい人の昆虫同定は、そうでない人より重く扱われます。
「全部公開」だと希少種が危険
珍しい生き物の正確な場所を公開すると、密猟や採集のリスクがあります。だから ikimon は3層のプライバシー保護を設計しました。希少種の位置は自動でぼかされ、時間も遅らせて公開されます。
「種数だけ」では生態系はわからない
「50種見つかりました」だけでは、その場所の自然が豊かかどうかは判断できません。だから ikimon は5つの軸で評価する BIS スコアを開発しました。種の多様性、データの質、保全価値、分類群のカバー率、そして調査の継続性。多面的に見ることで、はじめて生態系の健康状態がわかります。
データはどう守られている?
キミが記録したデータは、未来の科学者が使えるように大切に保管されます。同時に、今この瞬間の生き物を守るためのセキュリティも備えています。
位置情報の3層管理
Private 層 — 投稿者と研究パートナー
撮影した本人と、提携する研究者・専門家が正確な座標を確認できます。
Ambient 層 — みんなに公開
公開時は位置をグリッド単位でぼかし、時間も遅らせて表示。希少種はさらに粗くなります。
Admin 層 — 管理者限定
サイト管理者が全データを管理・監視し、不正利用を防止します。
ikimon に記録されたデータは、将来的にオープンデータとして公開することを目指しています。キミの1枚の写真が、未来の研究者にとっての貴重な資料になるかもしれません。
データの信頼性
「市民が集めたデータって、本当に科学に使えるの?」
答えは数字が出ています。2020年から2024年の5年間で、GBIF の市民科学データを使った査読付き論文は7,786本。IPBES(生物多様性版 IPCC)や IUCN レッドリストの評価にも市民科学データが使われています。「使えるか?」ではなく「なくてはならない」段階にあります。
ikimon はこの信頼性を、3つの仕組みで支えています。
AI はヒントを出し、人が決める
AI(Gemini Vision / BirdNET)は「答え」ではなく「候補とヒント」を提示します。「この模様に注目」「この鳴き声の特徴は」——そのヒントをもとに、コミュニティの同定者が最終判断します。AIの速さと、人間の経験知の組み合わせです。
TrustLevel(信頼度レベル)
すべての同定者の票が同じ重みではありません。過去の同定精度や専門分野に基づいて、票の重みが変わります。鳥に詳しい人の鳥の同定は、初心者の同定より重く扱われます。
BIS スコア(5軸評価)
生態系の健康度を5つの軸で評価します。種の多様性(Shannon-Wiener指数)、データ品質、保全価値(レッドリスト種の有無)、分類群カバー率、そしてモニタリングの継続性。ひとつの数字ではなく、多面的に生態系を見つめます。
参考文献
このページで引用したデータの出典です。すべて公開されている論文・公的資料です。
iNaturalist accelerates biodiversity research
BioScience, 2024. iNaturalist データの研究利用が5年で10倍に増加した分析
academic.oup.comBoosting biodiversity monitoring using smartphone-driven, rapidly accumulating community-sourced data
eLife, 2024. スマートフォンベースの市民科学データと専門家データの最適混合比率の研究
elifesciences.orgA digital twin for real-time biodiversity forecasting with citizen science data
Nature Ecology & Evolution, 2025. フィンランド MK アプリの市民科学データを用いたデジタルツイン
nature.comEnhancing the health and wellbeing benefits of biodiversity citizen science
Frontiers in Environmental Science, 2024. 市民科学参加による健康・ウェルビーイング効果の研究
frontiersin.orgNine changes needed to deliver a radical transformation in biodiversity measurement
PNAS, 2025. 生物多様性の計測手法を変革するために必要な9つの変化
pnas.org